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福岡地方裁判所久留米支部 昭和28年(わ)131号 判決

被告人 三角六郎

主文

被告人を懲役三年に処する。

未決勾留日数中八百日を右本刑に算入する。

押収してある愛知目覚時計一個(証第一号)、薄水色ビニール製コード二個(証第二号)、ニクロム線(鉄クロム)、毛線数本(証第三号)、ナシヨナル乾電池8KO記号二十個(証第四号)、裸線(電池接続用)数本(証第五号)、ハンダ粒子二個(証第六号)、自動車チユーブ中型焼残り二個(証第七号)、焼残りボロ切れ数片(証第八号)、ガソリンを含ませた白い布切数片(証第九号)、自動車チユーブをしばりつけたメツキ銅線二切(証第十号)はこれを没収する。

訴訟費用中証人梅野重吉、同梅野耕吉、同浜崎勲、同菅村鈍平、同川崎忠夫(昭和三十年五月二十五日付)同末崎康永、同松鵜政雄(同年六月二十八日付)に各支給した分を除き、その余を被告人の負担とする。

本件公訴事実中横領の点につき、被告人は無罪。

理由

罪となるべき事実

被告人は

第一、福岡県立八女工業学校機械科を卒業し、その後自動車の修理等に従事していたこともあるが、昭和二五年六月頃より綿貫敏彦と共同出資により八女郡豊岡村大字本分四百八十六番地梅野徳道方の表一室を借受け、アイスケーキ製造機一基を据付け三年間に亘り右綿貫敏彦の叔父に当る井手次平をしてその衝に当らせて、アイスケーキ製造販売業を営み、その傍ら川崎忠夫と共同して、川崎が労務を提供し被告人が資金を提供する約束で鹿児島県薩摩郡下甑村で銅鉱採堀事業に着手していたものであるところ、アイスケーキ製造販売の方が営業不振で利潤も少く、家賃も十数万円程延滞して収支が償なわないので、昭和二十七年九月頃にはついにアイスケーキ製造販売をやめ、同年十一月頃には同機械を売却することになり買主を求めていたが、思う様に売れず、他方川崎からは銅鉱試堀に要する資金の送付方を数回に亘り申入れて来たのでその金策に苦慮していた折柄、同機械並びにそれが設置されている店舗には同年九月十七日井手次平により日本火災海上保険株式会社との間に金二十万円の火災保険契約がなされていたことを想い起こし、右保険金を得て目下の資金難を切り抜けるより外に途なしと考えた結果、右機械の設置されている前記梅野徳道等居住の建物に放火して、同建物とともに右機械を焼燬しようと企て、その手段としていわゆる時限式発火装置の方法によろうと考え、同年十二月十八日八女郡福島町今村時計店よりアイチ時計電気株式会社製の目覚時計一箇、同町株式会社銀屋から懐中電燈用ナショナル乾電池二十個並にニクロム線を渦巻に取付けてある煙草火付器一個を各買受け、同日夕刻頃、右製造機械の見分に仮装して右梅野方にある自己のアイスケーキ営業所に至り、アイスケーキ製造機の設置されている室に最も近接した板張りの床下に、乾電池二十個を五個あてに並列に連結したものを四組作り、さらにこれを四組を直列に連結して一端は時計の足に、他端は導線を経て細いニクロム線俗にマッチライト用の線十四本につなぎ、このニクロム線の他端は時計にことさらに取りつけたボルトにナットを用いてとりつけ、時計のうらブタ即ちベルに相当するものをとり除き、ベルは鳴らないようにし、この時計のゼンマイ中ベル用のゼンマイに一定時刻(ベル用指針が表示する時間)に至つてこのゼンマイが作動しとけ初め、或る点にまで至るとボルトの先端と接触するようにし、且つこのボルトが時計全部から電気的に絶縁されるように時計の外かくよりとりつけ、そのためこのためこのゼンマイとボルトの接触により電池より導線をつたい時計よりボルトに、ボルトより導線に電流が通じこれがニクロム線を赤熱して媒介物であるタイヤチューブにボロ布及びガソリンを入れて両端を針金でくくつたものに引火する様に仕かけ、目覚時計のベルの鳴る指針を四時にし、時計のネジをかけ一旦動き出した時計をアンクルに指をあててこれを静止せしめ、僅かの衝動が与えられることによつて再び作動しはじめる様に前掲目覚時計乾電池などを用いて仕掛けた所謂時限式発火装置をしておいたので、昭和二十八年一月三日何らかの衝動によつて今まで静止していた時計が作動しはじめ、同日該時計の表示する四時(標準時に一致せず)にベル用の装置が作動しはじめ、従つてベルのネジがとけはじめ、これがボルトに接触すると同時に電流が通じ、ニクロム線が赤熱し、媒介物であるタイヤチューブを焦し、ガソリンボロ布に引火し、同所の床板、根太等に延焼せしめて火を放ち、同日午後六時過頃(標準時間)現に右梅野徳道等が住居に使用する木造瓦葺二階建々造物の一部である表側アイスケーキ営業所の床板、根太、棧等を焼燬し

第二、(一)(アイスケーキ製造機械の売却費用名義の下に金一万円を騙取した事実)(略)

(二)(事業資金借用名下に金一万五千円を騙取した事実)(略)

証拠の説明(略)

法令の適用(略)

一部無罪の判断(略)

よつて主文の通り判決する。

(裁判官 大曲壮次郎 長利正己 徳本サダ子)

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